金子宏直助教授 5 afterword

盆栽自分の心の中から出た感性によって行動して欲しい

 VALDESで盆栽クラブを結成しているとおっしゃって、作品(?)を見せてくださった金子先生。研究室ではいつも謎のプロジェクトが進められていて、本当に法律の専門家なのだろうかと、疑いの目を向けていたことを思い出しました。そんな金子先生から最後にメッセージを頂きました。

 「学生たちには、知的興味をもっと持って欲しいと思います。これ面白いかなって思うこと、勉強しようかなと思うことに挑戦して欲しい。専門とか仕事と関係ないと、そんなことに時間使うのだったら英語をちょっとでもやったほうがいいかなとか、何か有利な資格を取ろうと考えて、無駄なことをやらない傾向があるように見えます。それがとてももったいないと思う。

 学生の時は勉強するために入っているのですから、自分が感覚的に知的興味を持ったものは、どんどんやってみたらいいと思う。何年も時間かけるのではなくて、短期・中期集中でいい。多分、今まで勉強してきたことで疑問に感じていたことと関係していたり、裏返しだったりすることがあると思います。やってみて自分でここは面白いなと満足を感じることが大事、それが他のものに必ずいい影響を与えると思います。趣味でだらだら30分くらいやるのではなく、本当に集中して、頑張ったなと思えるくらいやるといい。今、就職のためのインターンシップなどが盛んですけれど、貴重な学生時代の時間の使い方は、よく考えて、自分の好きなことを自由にやってみることも大切だと思います。自分の直感を信じて、周りの人と同じことをするのではなく、自分の心の中から出た感性によって行動して欲しいと思います。要領よく賢く生きることは、歳をくってからやればいいのです。

金子宏直助教授 卒業生には、私に仕事をもってこい!と言いたいですね。卒業したら対等に仕事をやれる関係になりたいと思っています。今後VALDESを発展させるためにも、OBの人達で企画を立てて、シンポジウムなどを開催して世の中に還元して欲しいと思います。何でもやってみて欲しいですね」(取材・文・写真 土谷真喜子 6期)


・金子宏直研究室

金子宏直助教授 4 英語の論文を正確に読む癖をつける

法律英語の基礎知識 早川先生は英米法の大家で、先日お亡くなりになられました。直接習ったことはないのですが、これはとても良い本だと思います。英語ができるからといって、英語の法律の文章を理解できるかといったら、そこには大きな隔たりがあるのです。何の分野でもそうだと思いますが、学術論文ばかり読んでいる人が、いきなり小説を読んでも頭の中に情景が描けなかったり、ということがあるかもしれません。

 この本には、本当に簡単なことが書いてあります。簡単なのですが非常に重要なことなのです。法律に関する英文を読んでいる時、ここでorやandが入ると内容が変わってしまう、ということが多くあります。(本書から一例を引用すると、A or Bは普通A and B, or both の意味であり、この場合はA and Bと同義になります。しかし、A or B, but bothの意味の場合があります。罰則について、これらの表現では、刑罰が併科されるのと選択して科される大きな違いがでてきます)契約書とか判例とかに出てくる基本的な単語でも、その使い方を理解することが、内容を正確に把握するために欠かすことができないのです。(判例では、holdは裁判所が判断を下したという意味です。学生に訳させると、「裁判所が持つ、保持する」とか意味不明な訳をして来ます)

 受験参考書のような見やすいかたちにはなっていませんが、読んでいくととても重要なことがまとめられています。将来、ロースクールに行こうと思っている人達には役に立つと思います。大学院の講義などで英語の論文読むときには、正確に読むことが大切になる。そういう癖をつけるために努力していかないといけない。感覚的にこういうことが書いてある、ではダメです。危ないのです。読む対象によって、読み方を変える必要があるということなのです。シドニー・シェルダンなどを読むときには、多少法律用語も出てきますが、そういうものの文章を読むときと、論文とか判例で書いてある文章を読む時はおのずと違ってくるでしょう。

 そういう時に、基本的な単語が重要になってくるのです。往々にして、簡単な単語だと読み飛ばしてしまいます。そんなに配慮しなくても大丈夫、全体の意味はわかると思ってしまう、それが非常に危険なのです。辞書とかでは表現できない使い方の問題ですね。

 アメリカ(イリノイ)に留学していた時、マクドナルドに行きました。日本で使うように「セット」と言って注文しても通じなかった、「コンボ」と言わなければならない。自分たちが理解できる表現を言うまで相手にしてくれなかったのが衝撃でした。あとはポテトの量が多いのでケチャップをもっとよこせ、と言わなければならなかったですね。

 アメリカの論文では、はじめどうしてみんなラテン語を使うのかが、よくわからなかったですね。日本でも横文字を使いたがる人がいますが、それとは少し違うように感じました。用語としてラテン語が定着しているものもありますが、アメリカ人のある種のコンプレックスなのか、英語がどこでも通じてしまうばっかりに、自分の教養をどう示すかというために、人によってはラテン語を使うのが好きなのかもしれないと思いました。本を読んでいると、どうして急にこんな言葉が出てくるのか、これが入るとどう文章が良くなるのか、今でもよくわからないことがあります。

早川武夫・椙山敬士著 『法律英語の基礎知識(増補版)』 2005年、商事法務研究会、¥3,150

金子宏直助教授 3 法律における現実の意思決定データの計量分析

民事訴訟の計量分析 VALDESでは、社会学の人などは統計データを処理して社会動向や社会制度を分析し記述する研究がなされたり、統計論を多く使っていると思います。法律の世界でも、あまり盛んではないのですが、統計的な分析が行われています。この本は私が一橋大学の大学院をでて特別研究員時代、訴訟法の先生方の調査を手伝った仕事がまとめられたものです。当時、人手が要るので東京近辺の若手の人はかり出されてみんなで手伝いました。裁判所や法務省が全面的に協力して行った調査ですが、裁判の事件記録は守秘義務があり、持ち出しが禁じられているため、一日中狭い部屋に閉じこもって、裁判記録を調べました。非常に地味で過酷な仕事でした。

 平成8年に民事訴訟法の改正があったのですが、その改正の前後で裁判所の民事事件の実態を検証するための調査が行われました。当時、特に問題となっていたことは、今でも言われることですが、裁判は時間・お金がかかっていながら満足のいく解決が得られないという、非常に抽象的批判がなされていました。それに対して、裁判所や司法の現場では改善する努力を続けていたのです。平成8年の法改正は、そういう実務の経験や学問上の成果を取り入れて実施されたものですが、実態を正確に調べるために、裁判記録をあたって、どういう経過でそれぞれの事件が解決されていたかということを分析するための資料をつくったのです。その調査結果がまとめられたのがこの本です。

 司法統計年報というのは毎年出ていて、いろいろな要素に従った統計は公表されていて、今ではウェブ上で見ることも可能ですが、この調査は、裁判所のとっているデータだけでなく、個別の事件について、より詳細にそれぞれの事件がどういう経過をたどったかまで、データを調べ集計したものです。これまでも個別の事件についての調査はまとめられていましたが、全体的な計量分析がなされたものはなかったと思います。

 法律の分野で統計的なものを知りたい場合に便利な本です。また、制度を変える時に、統計を使った調査をしたという点も意義があると思います。統計の専門家も参加して行ったより詳細な実態調査の事例です。単に時間がかかる、お金がかかるという単純な理由で、法律の世界はだめだと言って、法律の理論を離れてしまうのではなく、裁判の実態を理解するための参考にしていただくと楽しいかなと思っています。ゲーム論とか、意思決定論をやる人たちも、こういう現実の意思決定のデータを参考すると、おもしろい研究ができるのではないかと思います。

(関連する情報: http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/tyousa/2001/survey-report.html

民事訴訟実態調査研究会(代表 竹下守夫)編 『民事訴訟の計量分析』 2000年、商事法務研究会、¥5,250

金子宏直助教授 2 「法律以前」の問題を考える

正義へのアクセスと福祉国家 これは、非常に古い本なのですが、新しく大学院に来た学生には必ず勧める本です。「正義へのアクセス運動」というものが、1970年代に世界的に法律学者の中で起こりました。法律が実現しようとしている正義とは何か、ということについて、いろいろな研究成果をまとめたものです。英語版は2、3分冊になっています。この本が提示している内容が、現在、さまざまな分野で議論されているADR論(裁判外紛争処理)のもととなったのです。

 ADR論の背景は、当時世界的な研究者の間で、どの国でも裁判制度で実現される法と正義は偏った普遍性のもとに成立している、という問題を抱えているということが問題となりました。しかしながら、裁判制度と並ぶ裁判制度を補うような紛争解決ためのいろいろなアイディアがあり、そのアイディアを実現した制度がたくさんあったのです。それが各国でどういうかたちで進んでいるのかを調査したものが本書です。それまで法律というのは、国王とか官がつくった法律をどう治世者が実行するか執行していくか、ということでした。そうではなくて、紛争処理をそれぞれの国の人がどう対処しているのかを具体的に示したものです。そういう視点から見ていくことが大事だという考え方が出てきたのです。

 今でこそADR論は当然だ、という風になっていますが、より現実的にどういう方法があるのか、理論的な背景とか、基本的なアイディアはこの一連の本が基になっていると思います。法律の条文を勉強するのではなくて、普遍的な正義や社会の問題に法律はどうかかわっているかという「法律以前」のことについて考えるきっかけになる本です。多分、人によって、読んだ時の印象とか受けるものがかなり違うと思います。基本的な法律の精神とはどういうことか、より現実的にどう対処するかなどについて、理論的なアイディアも含めて扱っています。

 制度の設計する時に、どういう目的でそれをつくって、どのように解決するのかを考えなければならない。日本はドイツ法的だからとか、アメリカの法律に照らしてつくらなければならない、ということではなく、本当にその制度が機能するように、必要なアイディアを設計しなければならないと思います。紛争を処理したり、紛争を未然に防いだり解決するための、各国のアイディアや努力の結果が、自然発生的なものも含めて、まとめられています。特に法律を勉強していく人は読んで欲しい一冊です。

マウロ・カペレッティ編/小島武司・谷口安平編訳 『正義へのアクセスと福祉国家』(日本比較法研究所翻訳叢書) 1987年、中央大学出版部、¥4725

金子宏直助教授 1 法律の地図をつくる試み

金子宏直助教授金子宏直の3冊

○ マウロ・カペレッティ編『正義へのアクセスと福祉国家』
○ 民事訴訟実態調査研究会(代表 竹下守夫)編『民事訴訟の計量分析』
○ 早川武夫・椙山敬士 『法律英語の基礎知識(増補版)』


 東工大に着任してから来年で10年になります。来た当初は、学生たちとそう年齢も変わらなかったのですが、最近どっとジェネレーションギャップを感じるようになってきました。そうはいっても、いつも若い学生と一緒にいるので、自分の精神年齢が止まっているような気もしますね。

 学部学生のゼミで知的財産権についての授業をしています。理工系の大学なので、法律の専門家を育てる目的ではなく、頭の体操として、理屈立ての仕方を学んで欲しいと考えています。『ケースブック知的財産法』(小泉直樹・井上由里子・駒田泰士・高林龍・佐藤恵太著 2006年 弘文堂)という本を使っていますが、大変熱心に取り組んでくれていて、優秀です。

 私の研究としては、法律の「地図」というものを作っています。法律の情報をどう視覚化して伝えるか、ということに挑戦しているのです。破産関係の法律を分析するための試みとしてやっています。例えば破産法、会社更生法、民事再生法など各法律の条文ごとのキーワード、文法を要素ごとに調べて、それを他の法律と比べると、法律同士の違いが視覚化できて明らかになるのです。

 悩みは、人手不足と研究成果を発表する場が、なかなか無いことでしょうか。こういう学問分野をどこで発表するか。法律系の学会や情報系の学会で学会報告をする場合、内容をその学会に合った発表の手順に合わせるのが難しい。いつも学生にはいろんな分野の勉強をするように言っているのですが、私自身苦心しています。

 マップ化することによって、直感的に何かがありそうだなと、見えてくるものがあるのです。今は二次元の平面のかたちで表記する形式をとっていますが、もっとヴァーチャル空間を探検するような形で情報のアクセスをできるようにしたい。ヴァーチャルというものの意味は、ショッピングモールとか現実の空間に似せたものをつくるのではなく、本当の感性の空間みたいなもの、ここに知りたいものがあるなというものを示すものだと考えています。

 例えば地図を見ていると、この辺は山とか湖があって面白そうだと思いを巡らせることができる。地図に書かれているものは、あると思い込んでいるけれど、実際には本当に存在している確証はない。我々はみんな実際には見たことはなくても想像力をふくらませることが出来るのです。私は、さらに細かい情報を盛り込めるツールだと考えています。

 マッピングという情報処理が流行っているのは確かです。膨大な情報を調べるとき、分厚い本をどっさり目の前に積まれたら、誰も読む気がしなくなるでしょう。しかし、図面にしていくと見てみたいと思うのです。今後はもっと発展させていきたいと考えています。でも、人手が足りない。希望者がいたら協力をお願いしたいと思っています。

・金子宏直研究室

 1  |  2  |  3  | All pages