サイエンス・ナビゲーターの挑戦:「ジョン・ネイビア対数誕生物語」の実演から(6月10日)

講師: 桜井進 (東京工業大学世界文明センターフェロー、サイエンスナビゲーター)

タイトル: サイエンス・ナビゲーターの挑戦:「ジョン・ネイビア対数誕生物語」の実演から

会場: 大岡山キャンパス 西9号館 デジタル多目的ホール

日時: 2009年 6月 10日(水) 17:00 ~ 18:00

講演について:
 ひろく一般に数学世界の啓蒙を目標としたサイエンスナビゲーターの活動は今年で9年目になります。数学エンターテイメントショーとしての講演は年60回に及んでいます。その対象は大学、高校、中学校、小学校そして一般です。理工系大学での数物系学生への啓蒙講座、高校ではSPP(サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト、科学技術振興機構)やSSH(スーパーサイエンスハイスクール、文部科学省)への参加・協力。その他、執筆、メディアへの登場。数学の伝道師としての機会が増えてきています。

 そして、2007年度からは東工大世界文明センターで「サイエンスキャラバン」を担当。全国の高校生に科学技術の魅力や重要性についてふれていただき、将来の進路選択の手がかりにしてもらおうというものです。サイエンスキャラバンのプログラムは私の「数学の夢」に加えて、VALDESでの指導教官であった橋爪先生の「地球を救え」、高橋世織(東工大世界文明センター・特任教授、文芸評論家)先生の「宮沢賢治と地球温暖化」、中嶋正之(情報理工学研究科計算工学専攻、世界文明センター芸術学院ディレクター)「ソフトウェアロボットって何?」のどれかを会わせた二つの講演、その後に高校生との質疑応答がなされます。

 数学に対する偏見と誤解、理解の低さは日本を含めた多くの先進国で抱える大きな問題です。数学が現代社会の大きな基盤であるにも関わらずです。それと連動する形で教育の中での算数・数学を教えることへの困難さもまた教育現場で問題になってきています。

 日本初のサイエンスナビゲーターとして、数学の現場(行政、研究、企業、教育)に携わる人たちと連携してこの問題に取り組んでいます。

 今回のフォーラムでは前半サイエンスキャラバンで行っている講演「ジョン・ネイピア対数誕生物語」を見ていただき、後半にサイエンスナビゲーターが現場で感じていることの報告を行います。


「ジョン・ネイピア対数誕生物語」
 1550年、宗教戦争が続くスコットランドにネイピアは生まれます。時代はヨーロッパ列強諸国が覇権を争う大航海時代のまっただ中。ネイピアはマーキストン城主として官の仕事の他、領民のために農業土木、軍事技術など多くの発明を行うエンジニアとして活躍しました。その一方で彼は熱烈なプロテスタントととして、深い信仰を持つ人でもありました。

 遠洋航海に必要な数学が球面三角法です。ネイピアは「ネイピアの公式」と「ネイピアの法則」を発見しています。その三角関数の計算の中に現れる大きい数の計算は天文学者を苦しめました。大航海時代は計算との闘いでもあったのです。天文学者は直面する天文学的計算を克服する手立てを見つけることができませんでした。

 彼らの計算を助けるために、ネイピアはついに新しい計算法を見つけ出す決心をします。時にネイピア44歳、1594年でした。その20年後1614年、ついに人類は「対数」を手にします。
『Mirifici Logarithmorum Canonis Descriptio』(ラテン語、奇跡の対数法則の記述)
『Description of the wonderful canon of logarithms』(英訳、驚異の対数法則の記述)
 しかしこの本は全く理解されませんでした。たった一人天文学者のブリッグスだけがその本質を見抜きネイピアの後を受け継ぐことになったのです。1616年、現在私たちが使っている常用対数が二人の手によって考案されるに至ったのです。ブリッグスは常用対数表の作成をネイピアと約束し、7年を費やしそれを果たしました。それこそがブリッグスの対数として世界を席巻することになりました。数学者ラプラスをして「対数は天文学者の寿命を倍に延ばした」と言わせしめました。

 その後対数なしには科学の発展はあり得なかったと言っても過言ではありません。計算機として発明された「ネイピアの対数」は忘れ去られてしまいました。現在から対数を振り返るとき、ネイピアの偉業と数学の力を確信した彼の思いが見えてきます。いま私たち人類は、解決しなければならない大きな問題をいつくも抱えています。やはり数学の力が必要とされています。

 「人はなぜ数学をするのか」今こそその問いを再認識すべき時なのではないでしょうか。ネイピアの人生と彼の数学の中にそのヒントが隠されています。