ヤナーチェク(Leos Janacek 1854-1928)

ヤナーチェクは最近とくに縁深い作曲家なので別枠で。

 ヤナーチェクはチェコの東部に位置するモラヴィア地方出身の作曲家。生涯この地方の都市ブルノから離れることなく過ごした。その作風は非常に異色で、民族色の強い土臭さがある。しかし、単なる民族主義的な側面だけでなく、時には非常に堂々と力強く、リズムが強調される一方、短くも美しい旋律が流れるという、その意味でもとても異色な作風と言えるのではないでしょうか。どうしてもチェコの民族音楽といった面が強調されがち(というよりそういうイメージが強い)で、時にその良さが「土臭さ」と表現されたりもしますが、そういった面があまり気にされなくなったとき、ヤナーチェクの作曲家としての評価が高くなるのでは、と思っています。舞曲などではそれでも良いのでしょうが。

以前から二つの弦楽四重奏曲は有名で演奏回数もディスク等も多いのですが、最近は『グラゴル・ミサ』の録音が数多く(というほどでもないでしょうか?)でたり、オペラの上演回数も増えてきました。とりあえずなにか聴いてみよう、という気になられた方には

「ヤナーチェク オペラ管弦楽集」フランチシェスク・イーレク指揮チェコ・フィル

(COCO-75607 SUPRAPHON=日本コロンビア)

がお勧め。まさにヤナーチェクのエッセンスがここにあるように思います。

またなにより、私のページよりも日本ヤナーチェク友の会の発起人で、素晴らしいヤナーチェクのホームページを作成されている山根氏のホームページをぜひご覧ください。

 ヤナーチェクのホームページへ(日本ヤナーチェク友の会)

それではここの作品の紹介を。

  1. 管弦楽曲
  2. 『グラゴル・ミサ』
  3. 弦楽四重奏曲(室内楽)
  4. オペラ

 

ヤナーチェクの作品群から

『シンフォニエッタ』

オーケストラが基本的には好きなので、やはりこの曲を最初に挙げなくてはいけないでしょう。もともと運動会のファンファーレ用に作られたというこの曲は有名で、すでに定着した感があります。これ一曲だけでも十分ヤナーチェクの非凡さは満喫できるでようにも思います。最初のファンファーレはともかく、第二楽章の出だしは、思わず「なにこの曲は?」と思わさせてくれます。ディスクも優れたものが多く、なかなかこれ一枚というのは難しいですが、私は

フランチシェスク・イーレク指揮 ブルーノ・フィル

のものが気に入っているほうです。その他にも

ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

サー・チャールズ・マッケラス指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

ラファエル・クーベリック指揮バイエルン国立管弦楽団

などなどが「基本」でしょうか。

狂詩曲『タラス・ブリーバ』

またこの『シンフォニエッタ』と、たいていいっしょに収録されているのが、狂詩曲『タラス・ブリーバ』。この作品はゴーゴリの原作によるもので、その民族主義的愛国心がヤナーチェクを刺激して、作曲されたもの。第一楽章の出だしからただものではない、と感じさせるようなところがあります(ややおおげさですが)。とくに第3楽章「タラス・ブリーバの死」が素晴らしい。まさに英雄の死にふさわしい輝かしいまでの音楽をここで聴くことができるのでは、と思います。

『グラゴルミサ』 

それに続いては『グラゴルミサ』。ここ何年かで随分と新譜が出たように思います。この曲はミサで用いられるテキストを歌詞として用いたミサ曲で、やはり

キリエ(Kyrie)

グロリア(Gloria)

クレド(Credo)

サンクトゥス(Sanctus)

アニュス・デイ(Agnus Dei)

を含むものですが、ラテン語のテクストではなく、古代スラブ語が用いられているところにその特徴があります。ただこの古代スラブ語というのは、実際に使われていたかどうかは不明でこのテキストは言語学者によって訳されたもの。

その点でも充分にユニークではありますが、それにつけられた曲もまた極めて独自な世界を作っています。それがスラブ的というのには当てはまらないところが、また良い様に思います。この曲は近年クルト・マズア、ティルソン・トーマス、シャルル・デュトワなど、新録音が多い曲。わたしは

シャルル・デュトワ指揮 モントリオール響

(POCL-1398 LONDON=ポリドール 1991年録音『シンフォニエッタ』を併録) 

カレル・アンチェル指揮 チェコ・フィル

(COCO-75316 SUPRAPHON=日本コロンビア 1963年録音『タラス・ブリーバ』を併録)

サー・チャールズ・マッケラス指揮 チェコ・フィル

(33C37-7448 SUPRAPHON=日本コロンビア 1984年録音)

の3枚を所有。ディトワのは特にこれといって、特筆すべきところはないようなもの。シンフォニエッタを併録している点が珍しい。音はいいので「悪くないし、お買い得」との意味で。ですがやはり録音の良さ、演奏の良さの両方を兼ね備えたマッケラスのものがやはり「正統派」の印象が強い。マッケラスはこの後にもこの曲に関する研究を進め、新たな「原典版」での演奏もしている。アンチェルは1963年録音なので、さすがに聴きおとり(?)はしますが、ステレオ録音であるし、なによりオルガンが素晴らしい。特にオルガンの音色が好きな人には、これだけのために買って聴くだけの価値はあるようにも思います。オルガン・ソロも既成の概念枠から外れた、激しい曲で私は大好きです。

 弦楽四重奏曲

実はヤナーチェクというと、この二つの弦楽四重奏曲が一番有名なようです。

第1番「クロイツェル・ソナタ」第2番「ないしょの手紙」

1番のほうのタイトルはなかなかすごいです。ベートーヴェンのヴァイオリンソナタが最初で、それを元にトルストイが小説を書き、さらにそれを元にしてヤナーチェクはこのクヮルテットを書いたのですから。2番のほうももともとはそのまま「ラブレター」であったというのは、有名な話。

ディスクとしては、スメタナSQかアルバン・ベルクSQかで意見の分かれるところでしょう。このあたりはほとんど各人の好みによるところでしょう。どちらかといえばスメタナSQのほうが「正統派」のようなイメージがあるのは否めないでしょうが。

ただ私としては、とりあえず

「ヤナーチェク:室内楽曲全集」(ガブリエリSQ、ポール・クロスリー、ロンドン・シンフォニエッタほか POCL-3666/7 LONDON=ポリドール)

をお勧めします。なぜかといえば当然代表的な室内楽曲を見事に網羅しているから。余裕があれば、両SQのCDを買えば良いので、やはりヤナーチェクのファンとしてはたくさん聴きたい。クヮルテットのほかにヴァイオリン・ソナタや管楽六重奏「青春」、コンチェルティーノなど。2枚組みで1枚分の値段であるのがまた嬉しい。

 

オペラ

 もちろん上に挙げた管弦楽曲等も良いのですが、これからはやはりオペラ。ようやく昨年暮れに『利口な牝狐の物語』が秋山/東響によって、そしてこの春 には『イェヌーファ』が大野/東フィルによってとりあげられたのは、嬉しい限りでした。その他にも『カーチャ・カヴァノヴァー』や『マクロプロス事件』『死者の家から』など欧米では比較的とりあげられています。とくにグラインドボーンで近年取り上げられているのが、多くLD化されていてみることができるのがなにより。

 各オペラの解説などはここでは避けます。とにかくオペラに関していえることは、どの作品も非常に個性的で、華々しいほどの精気を発している、ということでしょう。むかし中学生のときに、音楽の友社から出ている「オペラ名曲百科」で数々のヤナーチェクのオペラのストーリを読んでは、こういうオペラが日本でも見られないのだろうか、と思っていました。本当に(今でもそうですが)音楽の友の「海外レポート」でヤナーチェク上演のニュースを、うらめしく思っていました。

 幸い今までに『利口な牝狐の物語』『イェヌーファ』『カーチャ・カヴァノヴァー』『死者の家から』は観ることができましたし、『マクロプロス事件』は中古のレコードで手に入れ聴くことができました。そのなかでは実は『マクロプロス事件』が一番のお気に入り。とくにフィナーレの場面は、まさに圧巻。父の作った不老長寿の薬の実験台にされて、337歳まで生きた主人公エレーナ・マクロプロスが、遺産相続の決め手となる証言をするなどという、奇抜なストーリーとともに、まさに短いながらも美しい旋律がさらにこのオペラを素晴らしいものとしています。フィナーレでマクロプロスが秘法の紙を燃やされると同時に、急激に老婆となり死んでいく場面は演出上難しそうですが、ぜひ舞台を観て見たいものです。

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