『悪文の初志』

 文学はかつて(明治中期まで)「美文」だったことがある。しかし本書は「悪文」の意義を主張する。「悪文」は表象不可能なものに出会ったときの文章の振る舞い方なのだ。ことに戦後文学は、死と暴力の外傷に向き合うことで、自覚的に「悪文」を選択した。それはまた、死と暴力を美的に表象した戦争イデオロギーへの批判でもあった。

平林たい子文学賞受賞。

どの論文にも愛着はあるが、ことに、「連続射殺魔」永山則夫の文学を論じた「作家の誕生」は愛着が深い。また、大西巨人の大長篇『神聖喜劇』と富士正晴の戦場小説とを対比した「正名と自然」は、類例のない議論を展開した論文だと自負している。