『柳田国男と近代文学』

 雑誌「群像」連載時のタイトルは「誘惑と抗争」。

 私が実践したのは柳田国男の文章を徹底的に「読む」こと。柳田国男は論じられることは多いが、ほとんど「読む」ことがなされなかった思想家なのだ。柳田の思想の核心には「月並」というものへの深い認識と洞察がある。「月並」とはありふれた日常性のこと。それは大衆であり日々の暮らしであり、文学に引き寄せていえば、自明化した表象のことである。突きつめていえば、「月並」こそが人の生の基底を支えている。この「月並」の立場に立って、柳田は近代というものを疑い、自然主義リアリズム以来の近代文学を疑ったのだ。

 第一章では、『山の人生』冒頭の子殺しの話を分析した。ここは特に著者のおすすめである。

第四章では、その柳田との関係で、小林秀雄、横光利一、折口信夫、保田與重郎、中野重治らの思想や表現を論じた。

 伊藤整文学賞受賞。