『危機と闘争―大江健三郎と中上健次』

 雑誌「新潮」連載時のタイトルは「八〇年代以後大江健三郎と中上健次」。

 大江健三郎と中上健次は私の敬愛してやまぬ作家であり、ともに、現代文学を高度なレベルに押し上げてきた強力な推進力だった。本書はこの二人の八〇年代以後の仕事の意味を論じたもの。

八〇年代以後とはなにか。それは、高度消費社会の到来とサブカルチャーの浸食を受けて言葉がかつてない浮力をこうむった時代である。この浮力の時代に文学の言葉はどうあるべきか。二人は共通の難題を引き受けつつ、まったく相反する方向にその解法を見出そうとした。しかし、相反しつつ、「貧しさ」という方位だけは一致していたのである。この「貧しさ」は、現代を生きる我々が、現代においてなおも文学を選ぼうとする我々が、引き受けるしかないものだ、引き受けつつ抗うしかないものだ。

 「近代文学の終焉」がささやかれる時代に、大江と中上の仕事の意味はぜひ考えてもらいたい。