健康生成モデルと中心概念 Sense of Coherence

東京工業大学社会理工学研究科 岩井 淳
東京大学医学部保健社会学教室 山崎喜比古


I はじめに

 欧米の医療社会学では、古くから、生物医学的概念としての疾病(disease)に対照的な “生物心理社会的モデルに基づく病気”の概念構築を試みてきた。
 医療社会学者A. アントノフスキーが1980年代までに体系化した健康生成モデル(Salutogenic Model) 注釈1は、この概念構築の 魅力的な成果である[文献1, 文献2]。 健康生成モデルは、リスクファクターよりも健康の原因に着目し、 その決定的原因を遺伝情報等の不変的要素にではなく、 人生経験に基づく一種の世界観に見出す特徴をもつ。 健康生成モデルの体系は、 この領域の多数の理論を統一する枠組みとなる可能性をもち、 欧米の文献では繰り返し引用され続けている。 また、ヘルス・プロモーションの基礎理論としても 評価されている[文献3]
 我が国においては、しかしながら、健康生成モデルはほとんど知られていない。 行動科学理論としての小田の紹介[文献4]を除いては、本モデルに関する 研究は皆無と言ってよい。
 本稿では、本格的紹介の待たれる健康生成モデル の概要について、我々の所見を含めて説明を行う。

II 健康生成モデルの概要

 健康生成モデルの概要を説明する。 疾病に基づく従来の健康観との対比を基軸とする。

A.健康生成の着想

 従来の健康観は、 健康者を「疾病のない人間」と二分法的に要約する。 従来の健康観は、また、``疾病は特定の原因をもち、特定の対策で解決する''という 健康維持の考え方を伴い、予防の目標を 「特定原因への特定対策の対応付け」とする。 ワクチン開発は典型例である。
 アントノフスキーは、この伝統的パラダイムを 疾病生成モデル(Pathogenic Model)と呼ぶ。 疾病生成モデルは根底に次の信念をもち、 疾病原因への着目から健康を追求するという。
 具体的には、「何が人を疾病に追いやったのか」 「いかに患者から疾病原因を取り除くか」「いかに健康者を疾病原因から隔離するか」 を問うパラダイムとなっている。
 疾病生成モデルは、 人類に多大な福利をもたらした西洋医学の根幹である。 この二分法的で、特定原因に特定対策を対応づける特徴をもち、 何よりも疾病原因への着目を根底原則とする伝統的パラダイムは、 今後も、ある程度までは治療に貢献し続けるであろう。
 アントノフスキーは、しかし、全人口の大部分が何らかの病気をもつという 現代産業社会では、疾病のない人間をおしなべて健康と見なす二分法的健康観は 必ずしも適切でないと主張する。 確かに、我々の目にする普通の現代人の姿とは、 致命的に病気でもないが完全に健康でもない諸状態の中で、 日々を乗り切って生きていく人の姿である。 アントノフスキーは、また、近年の多くの研究者の言説を引用し、 「特定原因への特定対策の対応付け」による 治療の発展には限界があることを指摘する。 例えば、彼は、R. J. デュボスの次の言説を取り上げている [文献1, P.222]
 そして、最も重要な点として、アントノフスキーは、 疾病生成モデルの発想では疾病を招く原因に同様に 囲まれつつも健康を保つ人々がいることを説明できないと指摘する。 この指摘の根底には、 健康をもたらす原因に関心をおく次の着想がある。
 彼自身は、この着想をユダヤ人女性に関する更年期適応の調査の中で得た。 この調査で精神的に健康と見なせる者は、 第二次大戦中に強制収容所への収容を免れたグループでは51%、 収容を受けたグループでは29%であった。 彼は後者の29%という値をむしろ大きく感じ、 強制収容を経験したにも関わらず彼女たちが 健康でいる理由について考えた。 この考えの中で、疾病の原因のみに注目する二分法的な 疾病生成モデルの限界を結論し、 健康生成の着想を基礎とした健康に関する新たなモデルの構築を試みるに至った という。
 このようにアントノフスキーは、二分法的な健康観に代わる より連続的な健康観を、 「特定原因への特定対策の対応付け」に代わる 多様な原因に対応する健康維持の方略を、 疾病原因への注目に代わる 健康を生成するものへの注目を追求した。 各コンセプトを統合した 「健康生成モデル」(Salutogenic Model)を構築する中で 最も重要であったものが、 「健康を維持している一部の人々の健康生成の営みとは具体的に何なのか」、 「何が人間の健康をつくっているのか」という健康生成の問いであった。 彼は、これらの問題の解明をモデル作成上の最重要課題とした。

B.健康---病気の連続体

 アントノフスキーは、第一に、 全ての人間の健康度を完全な健康と完全な病気を両端とする軸上に 再配置する「健康---病気の連続体」(the health-ease/dis-ease continuum)という新健康観を提案した。 我々が重要であると考えるのは、 彼の「健康---病気の連続体」が、 健康と病気の間の中間点を設けたにとどまらず、 軸上では病気側に押し流す力が常に働いており、 各人はこの力と戦い自らの位置を維持しているというモデリングを含んだ点である。 「健康---病気の連続体」概念は、多様で遍在的なリスクファクターとの遭遇を 当然の環境的条件として前提にしている。このため、 この概念を利用する者の関心を、軸上の各主体自体の健康生成に集中させる。
 アントノフスキーによれば、 軸上には健康側に近い位置を維持し続けられるグループと、 これが困難なグループが存在する。 アントノフスキーは次のように議論する。 疾病同様、病気を導き得る原因は多様かつ遍在的であるので、 リスクファクターに無縁な主体は存在しないだろう。 常に健康側に近い主体には、 リスクファクターの種類に依存しない特徴を持つ 強力な健康生成の営みがあるとしか思えない。 この興味深い営みの実像は、 常に健康側に近い位置を維持し続けているグループの共通点として 浮かび上がって来るであろう。 健康側に近いグループに関するこの共通点の追求およびモデル化が、 「健康生成モデル」構築のための第二の作業であった。
 アントノフスキーは、 「健康---病気の連続体」上で病気側に人を押し流す原因となり得る数々の リスクファクターを、 心理社会的要素、物理的および生物化学的 要素を含め「ストレッサー」と呼んだ。 ストレッサーは必ずしも人を病気側に押し流す訳ではなく、 基本的にはストレッサーに出会った主体が 緊張(tension)を生じ、 さらにこの緊張の処理(management)に失敗したときに 初めて病気側に位置が移るという。 アントノフスキーは、 「ストレス」という用語を、 この病的(pathogenic)な結果を指して使用した。
 「健康---病気の連続体」上で健康側に近いグループの特徴とは、 多様なストレッサーに絶え間なく出会いつつも、 この結果ストレスを生じにくい人々の特徴である。

C.汎抵抗資源と首尾一貫感覚

 アントノフスキーは、健康生成の営みの主要な構成要素として、 『特定でなく多様なストレッサーに対応するための種々の資源』と、 『これらを駆使してストレッサーを処理していく感覚』に注目した。 前者を「汎抵抗資源」(GRRs: Generalized Resistance Resources) 、 後者を「首尾一貫感覚」(SOC: Sense of Coherence)と呼ぶ。 健康生成モデルの最も重要な概念はこの2つである。 特に後者のSOCは健康生成の問に対する答の中心であり、 アントノフスキーは、その強さが「健康---病気の連続体」上における人の位置を定める決定的な要素であるとした。 ここでは、両概念をGRRs, SOCと表記し、それぞれの概要を説明する。
 GRRは特定の抵抗資源を意味するSRR(Specific Resistance Resource)の対語である。 疾病生成モデルが追求する「特定の原因に対する特定の対策」は、SRRである。 アントノフスキーは、健康生成に優れたグループでは、 不特定のストレッサーに対し効果的な一般的な抵抗資源、すなわち、 GRRsが使用されているのだと考えた。 ストレッサーは極めて多様かつ遍在的なので、 全ストレッサーにSRRを割り当てることによる健康生成は不可能であると 考えられたためである。
 アントノフスキーは、GRRsの具体例として資金, 強い構造(constitution), クリアな自我, 柔軟性のあるコーピングスタイル, 社会的支援(social supports) 等をあげている(紙面の都合により詳述は避ける)。 彼自身の定義では、 『GRRとは (1.個人, 2.プライマリーグループ, 3.サブカルチャー, 4. 社会)の (1.物理的, 2.生物化学的, 3.人工物的---物質的, 4.認識的, 5.感情的, 6.価値態度的, 7.対人関係的, 8.マクロ社会文化的)な(1.特性, 2.現象, 3.関係)であり、 “それにより休みなく攻撃されているような無数の刺激を 意味づけることにおいて広範で継続的な経験を提供”し、 “送り出す刺激が意図された受信者に歪曲なく受信されているという 知覚を促進”するもの [文献1, P.121]』である注釈3。 この定義は難解であるが、まず前半部は 「あらゆる種類のもの」と解釈できる。 ある種の経験をもたらし、ある種の知覚を促進するという後半部は、 これらの「もの」がGRRとして満たすべき条件を表している。 この後半部の意味については、SOCを説明した上で再び取り上げる。
 SOCとは、『自分の内的そして外的な環境は予測可能なのであり、 しかも物事は無理のないように見込まれるし、 うまくいく高い見込みがあるというような自信、特に、 浸透的かつ持続的で、動的でもあるような自信の程度を表現する包括的な 方向性(orientation)[文献1, P.123] 』のことである注釈4。 「浸透的」とは“人格の一部を形成するほど深く根付いている”と いう意味、「動的」とは“臨機応変かつ意欲的”という意味であると 解釈できる。
 SOCは、問題を理想的になめらかに越えていく人の心を想像すると理解しやすい。 我々の作成した例を提示する。 有能な軍師になったとする注釈5。日ごとに部下が指示を仰ぎに来る: 「東の戦線がもたない」「塩が不足している」「疫病が発生した」。 答え方は落ち着いている:「使者を出して友軍に支援させよ」 「山脈寄りの進路に変えて岩塩を採れ」 「資金を投じ、薬師を集めて教えを仰げ」。 軍師には、自信がある。問題が報告された時、 それが解決されていく様が彼には見える。 静かな確信をもって冷静な命令を出し、その成功によりさらに自信を深める。 失敗してもうろたえず、次の策を思い巡らす。 以前成功した手段にも固執せず、臨機応変かつ意欲的である。 この軍師の中心にある、成功を目指す浸透した持続的かつ動的な心がSOCである。 すなわち、SOCとは、問題解決を試みる彼の心を想像し、 そこにある使者、友軍、山脈、岩塩、資金、薬師、あるいは 命令、依頼といった概念を取り除いていった結果、最後に残る 「うまくいく」という確信であると我々は考える。 問題解決の具体的成功によって、この感覚はさらに強まる。
 GRRの定義の後半部は、 「SOCによって問題解決に動員され、 SOCを強めるものであること」という意味であると 解釈できる。例の軍師にとっては、友軍との信頼関係、 地理の知識、資金等はGRRsである。これを適切に使用し、問題を解決する ことによって、SOCがより強まるためである。

D. 一貫感覚とストレッサー処理

 SOCが資源を動員してストレッサー処理を行う過程を説明する。 軍師の例を用いた具体的記述は既に示した。 ここでは、処理過程の一般的モデルを、図を用いて説明する。

図1:健康生成モデルにおけるSOCのはたらき

 図1は、アントノフスキーの描いた健康生成モデルの図 [文献1, Pp.184-185]を、 重要部分のみに注目して再構成したものである。矢印の符号は原書に従った。 ここでは、SOCを中心としたストレッサー処理の過程を説明する。 SOCの形成に関するA, C, Eには後で触れる。
 初めに、Dは、ストレッサーに出会った主体に関して 「強いSOCがGRRsとSRRsを動員すること」を表す。 具体的にどのように動員するのかは主体ごとに異なる。 また、2種類の資源のうち、アントノフスキーは特にGRRsを重視する。 強いSOCはストレッサーを避けたり(J), これを ストレッサーでないものと見なす(K)ことができる場合がある。 ストレッサーを問題として受け止め、 これを克服しようとする場合(M)には、緊張状態が生じる。 しかし、SOCが強力である場合には、問題解決に成功し、 すなわち緊張処理に成功する。これによってSOCはさらに強まる(N)。 緊張処理が不成功に終わった場合には、主体はストレス状態に陥り、 「健康---病気の連続体」上における主体の位置は後退する。 以上がSOCを中心とするストレッサー処理過程の概要である 注釈6
 SOCは、健康生成の問に対するアントノフスキーの解答の中心である。 アントノフスキーは、SOCの強さ注釈7が、ストレッサーの処理を左右し、 「健康---病気の連続体」上における主体の位置を左右するのだと考えた。

E 首尾一貫感覚の形成と永続性

 SOCは、主として幼少期から若成人(young adult)期にかけて育まれ、 変化しにくいとアントノフスキーは言う。彼の議論を要約すると次のようになる。
 『生誕時もしくは生前からでさえ、 人は挑戦、反応、ストレス、緊張、解決という状況を通過していく。 これらの経験が、一貫性 結果を形成することへの参加 刺激の過小負荷---過大負荷のバランスの良さという特徴を持つほど、 人は世界が一貫性をもち、予測可能なものであると見始めることが多い。 すなわち、SOCが形成されていく。 ただし、(初めのうちの)全ての経験が予測可能な傾向にあるのは逆効果である。 (リスクファクターは多様で遍在的なので) いずれは予測不可能な経験に出会って不快な驚きをするであろうし、 これに伴ってSOCが弱まるためである。 強いSOCを発達させようとするのであれば、 個人の経験群は全般的には予測可能でなくてはならず、 (問題解決の結果として本人が)「価値ある」 (すなわち、喜ばしいと感じられるような)経験群でなければならない。 しかし、(幾分かは、問題解決の失敗としての) 挫折と罰(という経験)をも含んでいなくてはならない。 一度形成され設定されたSOCは、変化しにくい。 [文献1, Pp.187-188]
 SOCの形成過程は具体的なシナリオを用いると理解しやすい。 再び我々の例を提示する。空腹で栄養を採る必要のある幼児を考える。 幼児は、普段はよく祖父に甘えて飴をもらう。 祖父は必ず飴を与えてくれるため、甘えるときに幼児に不安はない。 さて、ある日、 祖父は不在で母親がおり、母親には甘えても飴はもらえなかったとする。 そして、幼児が「走って疲れたから」 と説明すると、今度は母親も納得して飴を与えてくれたとしよう。
 幼児が自信をもって甘えることができたのは、 祖父が、甘えると一貫して飴を与えてくれたためである。 これが「一貫性」のある人生経験である。 また、幼児の自信は、 祖父不在の問題が自分の行動で解決したときに深まったであろう。 これが「結果を形成することへの参加」である。 さらに、幼児は祖父の不在という稀な事態を通じ、 「甘える」以外の新手段「説明」を覚え、自信も深めた訳であるが、 祖父が常に在宅であればこの成長はなかったであろう。 同様に、どうしても母親から飴を得られず、 類似の失敗を限りなく反復したとすれば、幼児の自信は萎縮したことだろう。 例中の試練は程度が適切であったと言える。これが 「刺激の過小負荷---過大負荷のバランスの良さ」である。
 図1のA, C, Eは、SOCの形成過程を表現している。 まず、個別に詳述することは避けるが、 子どもの養育様式等の「GRRsの源」によって、 主体はGRRsを獲得する(E)。 続いて定義により、GRRsは、ある特徴をもった生活経験を提供する(C)。 具体的には、上記要約の強調部である「一貫性」、 「結果を形成することへの参加」、 「刺激の過小負荷---過大負荷のバランスの良さ」 によって特徴づけられる経験を提供する。 そして、この種の特徴をもつ経験の蓄積が、SOCの感覚を育むという(A)。

III おわりに

 本稿では、健康生成モデルの概要について、我々の所見を含めて説明を行った。 健康生成モデルは、さらに検討すべき点も含む注釈8が、 魅力ある新たな理論体系である。
 健康生成モデルの促す健康生成の問いは、 疾病原因への着目に偏りがちな現代医療の中で補完的役割を果たし得る。 化学物質の発癌性分析を例に取る。 ある物質の摂取が発癌性をいかに高めるのかを調査するのが 疾病生成モデルの発想であった。 しかし、同量の物質を摂取していても発癌しない人々が大勢いる。 彼らを発癌から守っているものは何か。この健康生成の問いは、 従来の疾病生成の問いと同様に本来追求されるべき問題である注釈9
 健康生成の問いへの答えとされたSOCが後天的である点も重要である。 SOCは、遺伝的な生得能力ではなく、 むしろ生育過程によって生成する後天的な資質であるという。 後天的な属性であれば、その水準を高める政策づくりは可能である。 市民のSOC育成や育成に支援的な環境づくりは、 有効な公的健康政策となる可能性がある。
 最後に、本稿では詳述を欠いたが、 SOCは環境への信頼・安心の感覚を取り込んだ自信である。 この東洋的とも思える感覚が、 自己、特にその統御性を強調しがちな欧米で着目され始めている 点も興味深い。 我々がSOCに関心を寄せる原因の1つは、ここにもある。
 我々は、健康生成モデルのさらに包括的な紹介が必要であると感じる。 本稿の健康生成モデルの要約は、当モデルの核心部分に注目したものであり、 必ずしも網羅的ではない注釈10
 我々は、本稿で紹介することのできた骨格としての健康生成理論が広く理解され、 この分野の研究が我が国においても進展することを期待している。

【補注】

(1) `salutogenic'を「健康生成」とする本稿の翻訳は、 文献4に準じたものである。(戻る)

(2) 原語では`magic bullet'で、「特定の対策」の意味である。 アントノフスキーは、この表現を多く用いる。(戻る)

(3) 原文は`a generalized resistance resource is a physical, biochemical, and so forth characteristic, phenomenon, or relationship of an individual, primary group, subculture, society that provides extended and continued experience in making sense of the countless stimuli with which one is constantly bombered and facilitates the perception that the stimuli one transmits are being received by the intended recipients without distortion' であり、文中の `so forth'の指し示す内容は、 `artifactual-material, cognitive, emotional, valuative-attitudinal, interpersonal-relational or macrosociocultural'である。(戻る)

(4) 原文は `a global orientation that expresses the extent to which one has a pervasive, enduring though dynamic feeling of confidence that one's internal and external environments are predictable and that there is a high probability that things will work out as well as can reasonably be expected'である。(戻る)

(5) 自らの傷や疾病を最小限に留めて日々を送ろうとする優れた一般人の姿も同様に記述できる。なお、SOCは 特定の活動領域でのみ沸き上がる条件反射的な自信ではなく、 幼少期からの多様な人生経験の結果として形成される基本的な感覚であるとされる。 以下の部分でより詳細に説明するが、この点については留意されたい。(戻る)

(6) アントノフスキーは、 GRRsとして心理社会的なGRRsを特に重視しており、 原書の図では、 心理社会的なGRRsに限り項目のリストアップを含めている。 また、健康生成モデルの説明では、 彼は、特に心理社会的なストレッサーに議論を集中させた。(戻る)

(7) アントノフスキーはSOCの評価スケールを開発している。 一般的な自己効力性の測度は困難であるとする心理学分野の議論があるため、 このスケール開発は興味深い。 本スケールは、29項目から成り、以下のような 質問を含む。 [文献2, Pp.189-194]

1) 人と話しているときに、相手が自分のことを理解していないと感じることが ありますか?
       1(まったく感じない).......7(いつも感じている)
4) あなたは、自分の周囲で起こっていることがどうでもいいという気持になることが ありますか?
       1(まったくない).......7(とてもよくある)

 例として提示した第1, 第4項目とも、1が最良の7得点を与える。 29項目全体で203点満点となるが、満点に極めて近い場合は 精神的な問題が予想され、これよりも少し低い得点が最も望ましいという。 なお、上記の各項目は、 東京大学医学部保健社会学教室アントノフスキー研究会による翻訳である。(戻る)

(8) 例えば、SOCを中心とした健康生成モデルのストレッサー処理の理論が、 物理的生物化学的なストレッサーについても完全に適合するのかどうか必ずしも 明らかでない。 心身相関の研究は、心理社会的な事象と物理的生物化学的な事象 との強い相関を明らかにしてきているが、 SOCと物理的生物化学的ストレッサーという構図には、さらに検討が必要である。 また、図1のパスがどの程度まで 法則性のあるものなのか、SOCスケールがSOCのコンセプトをどの程度まで的確に反映しているのかについても、さらに検討が必要である。 最後の点に関しては、我々は、現在のSOCスケールの質問項目が 欧米で評価されがちな積極性評価に偏っているのではないかという、 若干の疑問も抱いている。(戻る)

(9) 現代の医療に関しては、健康生成の着想が皆無である訳ではない。 アントノフスキーは健康生成の問を伝統的医療の着想と対照的に位置づけたが、 同様の問は、他の医学分野の研究でも、 現代では既に一定の地位を獲得しつつある。 疫学では、病気発生の3条件を「病原体」、「環境」、 「宿主」としており、病原体が存在していても発症に結びつかないのは環境と宿主の2条件がその防衛に寄与するためであるとする考え方を提供している。 ただし、この分野の研究はまだ今後に期待するところが大なのであり、 健康生成の問はさらに一層重視されなくてはならないというのが、 アントノフスキーの見解であろう。(戻る)

(10) 健康生成モデルは、 モデルの構成物である諸概念について再定義を繰り返す構築過程をもっており、 複雑である。 本稿では、諸概念の説明にあたり、 導入として適当であると判断した中間的諸定義を採用した。 具体的には、SOCにはその初回の定義を、 GRRsには二度目の定義を採用した。 アントノフスキーは、議論を進める中でストレッサーを GRRsの欠如として再定義し、ストレッサー概念とGRRs概念の統一化をも 試みている。この点についても、新たに紹介が必要である。(戻る)

【引用文献】

1)Antonovsky, A: Health, Stress and Coping. Jossey-Bass, San Francisco, 1979.

2)Antonovsky, A: Unravelling the Mystery of Health. Jossey-Bass, San Francisco, 1987.

3)Kichbusch, I: Tribute to Aaron Antonovsky---`What creates health'. Health Promotion International, Vol.11, No.1, 5-6, 1996.

4)小田博志: 「健康生成パースペクティブ:行動科学の 新しい流れ」, 日本保健医療行動科学会年報, Vol.11, Pp.261-267, 1996.